時を経ても処が変わっても変わらない生活

三五周年を迎える、国立国際美術館の館長として、一年前に横浜より赴任してきた山梨さん。絵画に関するたくさんの著書も出版し、美術を通じて文化活動に貢献。知られざる美術館の裏側にお邪魔しました。

美術館は、非日常な空間

国立国際美術館は、世界でも珍しく地下に位置している。エスカレーターを降りるだけで、不思議な世界へ誘ってくれる。そんな美術館の裏側は・・・。職員用入り口を通り抜けると吹き抜けの、高い天窓から、光が差し込む明るい空間。
ここで学芸員は集まり、次の展覧会の企画などを話し合う。天井から吊られたシートのリゾート風の演出に、さすが美術館と感心していると、実は日差しが強すぎて、サンルーフを兼ねたシートを張ることで工夫したそう。過ごしやすくするためにと取り付けたサンルーフもお洒落に見えるのは、ここならではの魅力かもしれない。

使い安いデスクがあれば満足

単身赴任先の大阪に越してきたのは1年前。出張も多い山梨さんにとって、館長室で過ごす時間は長く、まるで自宅のようだとか。
扉を開けると、重厚な机に、本や資料がたくさんはいるようにと用意されたオーダーメイドの本棚がお出迎え。「自宅のインテリアは家内に任せています。唯一のこだわりは、机はやはり木でできた大きなものが良い」と語る、山梨さん。自宅の書斎も・単身赴任先の部屋も机は、ダイニングテーブルを使用しているという、機能重視派。

手作りの原稿用紙に、製図用の鉛筆

仕事柄、展覧会を催すため、作家に関して・作品に関して、来場者に伝えるための原稿を書くことも大切な仕事のひとつ。パソコンを使用するのではなく、400字詰めの原稿用紙に30年以上コレ1本という「製図用の鉛筆」(芯ホルダー)で原稿をしたためるのが山梨流。
また、なんとこの原稿用紙は、自身で使いやすいようにデザインして、大量に印刷して使用したという徹底ぶり。ルビをうちやすいように、変形した四画が印象的な原稿用紙。現在は、既に1,900枚目に突入した風景画論を執筆中。この原稿が、本になって私たちが目にする日もちかそうだ。

お気に入りは、昔ながらの喫茶店

日々の生活でかかせないのが喫茶店巡り。珈琲を飲みながら、執筆活動をする「仕事の場」として利用するのがお気に入りだそう。
仕事の帰りに、気になる喫茶店に寄っては原稿を書きながら筆を走らせる。消しゴムと製図用の鉛筆に自前の原稿用紙だけあれば、どこでも書けるし集中できるのだそう。もちろん自宅でも、書く作業はかかせない。
一般的な机は狭いので、木製の飾り気のないダイニングテーブルを仕事用机として使用。

絵画のある生活空間がもたらすもの

横浜の自宅・現在の住まい・館長室。全ての共通点は、好きな絵や、作家の作品を飾っていること。美術に携わる仕事について35年。趣味は、音楽と囲碁。「若いころ特に美術だけに興味があったわけではない。」という山梨さんも、いつの頃からか気に入った絵を自宅や仕事場に飾るようになった。絵を所有し、手元に置きだすと絵の見方も変わるという。
「インテリアとして絵を飾るのはとても良いことです。部屋に見合った小さな絵でも良い、是非1枚飾ってみて欲しい。」と絵を見つめる後ろ姿に、作品に対する愛着と、美術を通じて文化活動を発展させるという志を感じずにいられませんでした。

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Profile

山梨 俊夫(ヤマナシ トシオ)
1948年横浜市生まれ。東京大学文学部美学芸術学科卒業後、出版社勤務を経て1976年より神奈川県立近代美術館の学芸員として勤務。
数多くの展覧会の企画や、調査研究活動に従事しながら、講演や、研究を著書にするなど美術を通じて幅広く活動。2011年国立国際美術館の館長に就任後は、東日本大震災の復興支援のためのチャリティー活動などにも携わる。

主な著書
「絵画の身振り」
「風の絵」
「絵画を読み解く10のキーワード」
「現代絵画入門」
「描かれた歴史―日本近代と「歴史画」の磁場」

国立国際美術館
http://www.nmao.go.jp

山梨 俊夫(ヤマナシ トシオ)